円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
「それ、何か証拠はあります?」
 前のめりに聞いてしまう。

 ジェイはポケットから小さな手帳のようなものを取り出した。
「過去のいろんな交渉事は、ここに記録してある。依頼人と内容、報酬の受け取り場所と日時、金を持ってきたヤツの人相」
 そこには本人しかわからないような暗号のような記号で、びっしりとあれこれ記されている。
 元商人らしいマメさだ。

 このメモを元に調査すれば罪は暴かれるに違いないけれど、山賊だってその共犯者だ。
 きちんと法律で裁きを下すために、私的な報復はせずに調査に協力してもらいたいところだが、それは難しいかもしれない。

 これはレイナード様の力を借りなければならないわね…。

 そう考えている時に、扉がノックされてレイナード様が入って来た。
 言付けを聞いて、来てくれたようだ。


 レイナード様の後ろには、ルシードもいた。
「馬車の中で大まかには話したよ。そのくつろいだ様子から察するに、安心できる状況ってことでいいのかな?」

 ルシードの顔は青ざめている。
 実の兄が見つかったことや、その兄が大怪我を負って意識不明の状態でビルハイム家に担ぎ込まれたと聞けば誰だって混乱と不安でそうなるだろう。

「兄さんは?」
 小さく震える声で問いながら、ルシードはメガネを外し目に溜まった涙をぬぐった。

 ジェイは、ルシードの姿を見て驚いている。
「俺がお頭と初めて会ったときの…8年前のお頭にそっくりじゃねーか」

「お頭の弟のルシードですよ」

「いや、だって、騎士団長に食べられて…」

 だから、食べてないってば!

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