円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 キースが再び目を覚ました時、そのベッドサイドにはわたしとレイナード様とルシードがいた。

 キースの容体が落ち着いていることもあり、医師たちは一旦本邸のほうで休憩してもらっていて、ジェイも隣の部屋で休んでもらっている。

 ゆっくり目を開けた後、勢いよく起き上がろうとするキースを、わたしとレイナード様とで押さえつけた。
「だめよ、キース!左腕を切り落すことになりたくなければ、おとなしくして!」

 こうなるんじゃないかと思って、構えておいてよかったわ。

 包帯を巻かれている自分の左腕を見たキースはギョッとしている。
 無理もない、包帯から出ている指先や肩が紫色をしているからだ。きっと感覚もなくてジンジンしていることだろう。

「解毒剤と回復魔法(ヒーリング)でどうにか切断を食い止めているところです。安心してください、我が家の医師は優秀だから、しっかり治療すれば元に戻ります。だから、まだ残っている毒が全身に回らないようにおとなしくすること!いいですね、お頭?」

「山猿…相変わらず元気だな」
 
 キースがゆらりと上げた右手を握った。
「はい、おかげさまで。再会できて嬉しいです」

 微笑み合った後、キースの視線がルシードで止まる。
 どう切り出そうかと思ったところで、グイっと肩を抱き寄せられて、わたしはレイナード様の胸におさまってしまった。

 え?何事!?

「ここは兄弟水入らずってことで、俺たちはあっちの部屋で待っていようか、シア」
 いつもより低いレイナード様の声が頭上から聞こえる。

「ええっと、そういうことだから、ごゆっくり!」
 レイナード様に腕を引っ張られながら、どうにか振り返ってそれだけ言った。

 そして、部屋を出て扉が閉まると同時にレイナード様にぎゅうぎゅう抱きしめられてしまった。
「レイ?どうしたの?」

「シア…何としてでもリリーの小説を売りまくって、早く二作目を書いてもらわないといけないな」

 いきなり何の話ですか!?

 レイナード様ったら、また小説の内容と混同しているのかしら?と思いながら苦笑するしかないわたしだった。

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