円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 ルシードの涙が落ち着いた頃、扉がノックされてステーシアが顔をのぞかせた。
「お腹すいているでしょう?食事を持ってこさせるから、ここで二人で食べるといいわ」

 ステーシアはベッドに張り付いて俺に頭を撫でられているルシードを見て、「よかったわね、ルシ」と言って、うふふっと笑った。

 再び二人っきりになった室内で、ルシードが少し声を潜めた。
「ステーシアさんはね、機嫌がいい時は伯爵令嬢らしく優しいんだけど、怒るとこわいから、あの人のいうことは聞いておいた方がいいよ」

 あの山猿が怒ったところで、キーキーうるさいだけなんじゃないのか?

 そう思った時に、ルシードの口から思わぬ単語が飛び出した。

「死のダンスをお見舞いされるからね」

 ―――!!
 死のダンスだと!?
 
「それは…狂ったように回り続けるっていうアレか?」

 ルシードは神妙な面持ちでこくこくと頷いた。

 それは砂漠の国で作られた、飲み込むと死ぬまで狂ったようにクルクル回り続けるという恐ろしい毒の名称だ。

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