円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 輝かしい功績を多く残したレイナード王だったが、彼の家庭生活に関しては「子だくさんだった」ということ以外あまり語られることはない。
 それは、妻であるステーシア妃があまり表舞台に登場しなかったせいだ。

 ステーシア妃はかなり破天荒な人物だったようだ。
 
 建物の二階から飛び降りても怪我ひとつなかった
 カモを溺愛していた
 ゴリラと戦って勝ったことがある
 夫の側近をいつも踏み台代わりに使っていた
 「前世は山猿だった」が口癖
 騎士団とトラブルを起こし出入り禁止になった
 生徒の顔面に膝蹴りを食らわせて魔導具科から出入り禁止を言い渡された 
 猛毒を持ち歩いていた 
 性欲が強く毎晩求めていた

 ざっと挙げただけでも人間性を疑うような逸話ばかりが残っている。

 ステーシア妃と政略結婚したレイナード王は恐妻家である反面、ちゃっかり赤毛の女性と愛人関係にあったと言われている。

 この赤毛の女性はレイナード王を陰で支え続けた諜報員の一人だった。
 黒髪の諜報員が、元山賊のリーダー、キース・マルダであることはよく知られている(リリアン・Dのロマンス小説に登場する山賊は彼をモデルにしたという噂もある)が、赤毛の女性に関しては関係者が頑なに彼女の素性を隠したために名前すら判明していない。

 それがつい最近になって、ある歴史学者が「赤毛の女性の正体はステーシア妃だった」と結論付ける論文を発表した。
 当初学会では、この仮説は相手にもされていなかったが、国内外に散らばる赤毛の諜報員の逸話とステーシア妃の年表を並べてみると、ステーシア妃の出産前後と赤毛の女性の活動が途絶えている時期がぴたりと一致した。
 また、レイナード王の多くの輝かしい功績の裏に、実はステーシア妃が深く関与していたことも明らかになったのだ。

 こうして、世間が抱くステーシア妃の人物像はがらりと変わった。

 自ら暗躍して国内外を駆け回って名君を支え、平和を守り続けた彼女こそ、偉大な国母であり王国の盾であった、と。

 
―END―



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