円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 予期せぬムズカシイ話を振られたときに、わたしがどう対処するか試されているんだろうか。
 それとも、わたしをみじめな笑いものにしたいだけ…?

「申し訳ございませんっ、勉強不足で…出直してまいります」

 泣きそうになっている顔を見られたくなくて、うつむいたまま立ち上がると急いでドアへと走った。

「シア、待って!」
 レイナード様の声が聞こえたけれど、待てと言われて素直に待つはずがない。
 背中を向けたまま教室を出て廊下を駆け抜け、角を曲がったところで足を止めた。
 
 雑談はいいから早く勉強しようと促したのはわたしなのに、何も答えられないからって逃げ出すだなんて、なんてみっともないんだろう。
 レイナード様もさぞや失望したことだろう。
 勉強会への参加は今日限りにすると伝え損ねたけれど、来週わたしが顔を出さず、そのことでさらに心証が悪くなったとしてももう構わない。
 
 周りに誰もいないのを確認して大きく深呼吸した。

 このまま寄宿舎に戻っては、動揺を隠しきれずに友人たちを心配させてしまうかもしれない。
 人の少ない静かな場所で気持ちを落ち着かせようと決めて、図書室へと向かった。
 
 
 図書室で海賊の本を探してみたけれど、海賊の実態について語られている書物はなく、海賊キャラが出てくる物語ばかりだった。
 山賊に至っては、山賊が主人公になっていたり、ヒロインの相手役になっている物語すら皆無だ。

 山賊といえば、無慈悲に人を殺し金品を奪うたちのわるいゴロツキで、やっつけられておしまい、という認識が物語の中でも定番らしい。

 挿絵にかっこいい海賊が描かれているロマンス小説を、図書室の隅にある椅子に座り、最初はなんとなくパラパラとページをめくっていたけれど、どんどん物語に引き込まれて途中からは夢中で読んでしまった。

 突然の嵐で難破しかけた船に乗っていたお姫様を海賊たちが助けたところから始まる、お姫様と若き海賊の頭領の身分差ラブストーリー。
 海賊を取り締まる側の王家の娘と、弱者を助ける男前な心意気を見せながらも犯罪を犯すことだって厭わない海賊との恋は、誰にも知られてはならない禁断の恋だった。
 それが許されることのない叶わぬ恋だとわかっていても、互いに惹かれ合う気持ちは増すばかりでお忍びで逢引を重ねるのだが、ついにそれがバレてしまい、姫は厳重な監視をつけられて外部との連絡手段も断たれてお城に閉じ込められてしまい、さらには無理矢理、別の男と婚約させられてしまうのだった。


 ここまで読んで「まあ、なんてこと…」と思わずつぶやいてしまった。
 この二人の恋にハッピーエンドはあるのかしら?
 ドキドキハラハラしながら先を読もうとしたところで、こちらに近づいて来る足音と小さな話し声が耳に入って来た。

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