円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 わたしがさっそく、そんな二人に「円満に婚約破棄をするために、あることを思いついたのだけど」と相談すると、二人ともとても複雑そうな顔をした。

「待って!そもそもレイナード殿下は本当に完全に心変わりしてしまったの?もうステーシアに対する愛情はないってこと?」
「ナディアさんが来るまでは、殿下とステーシアさんはとっても仲睦まじい恋人同士のように見えたけど…」

 いやいやいや、何をおっしゃる!
 わたしたちが「恋人同士」だったことは一度もない。
 幼馴染からいきなり婚約者になって、社交パーティーでは当然のようにパートナーとなって、今に至る。それだけだ。

「わたし、レイナード様から一度も『好き』と言われたことなんてないのよ。『婚約者になってください』なら言われたけど」

「「ええっ!?」」
 二人の驚きの声がそろう。

「でも、婚約者になってくださいイコール好きってことなんじゃないの?」

 マーガレット、いい質問ね。
 非常に庶民感覚だわ。
「貴族にはね、政略結婚というものがあって、必ずしも好きだから婚約者になるっていうわけではないの」

「でも…」
 リリーが口を挟む。
「勘違いしないでね、決してビルハイム伯爵家のことを蔑むわけではないのよ?ただ、ビルハイム家の令嬢と結婚してどんなメリットがあるのかしら?ボディーガード?」

 リリー、あなたまでいい質問ね。
「その通りよ、何せわたしは若干10歳にしてお世継ぎを吸血コウモリの群れから無傷で守り抜いたのよ。この子なら山賊に襲われようが海賊に襲われようが、その身を投げうって命尽きるまでレイナード様の盾になりきるだろうと見込まれたんだわ、きっと」

「なんか、壮絶ね」
「悲壮感と使命感が半端ないわね、さすがビルハイム家のご令嬢だわ」

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