円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
「それに、レイナード様がわたしを婚約者にすることに素直に頷いたのはきっと…」
 ここで声のトーンが落ちるのが自分でもわかった。

「この傷痕のせいだわ。レイナード様は責任感が強くてお優しいから、いつまでも罪悪感を抱いてらっしゃるのよ。だから彼には最初から愛情なんてなかったの」
 首にそっと手を当てた。

「でも!ステーシアさんは、殿下のことが好きなのよね?」

 マーガレットったら、どうしてあなたが泣きそうな顔をしているのかしら。
「そうね、好きだったわ。たぶん、初めて会った日からずっと」
 でも、大きくなってからは、その気持ちをきちんと彼に伝えたことはなかったと思う。

「ナディアから取り返してやろう!って気持ちはないの?」

「リリー、あなたはいろんな物語をたくさん読んでいるから知っているでしょう?わたしの今の立場は『悪役令嬢』なんじゃないかしら。王子の婚約者で、ヒロインにあれこれ意地悪をして、卒業パーティーで大っぴらに婚約破棄を言い渡されるアレよ。
 レイナード様に嫌われまくって、周囲からもステーシアは王太子殿下の婚約者には不適格だとなれば、レイナード様が悪者になることなく婚約破棄できるでしょう?わたしはそれを目標に気合を入れて悪役令嬢を演じ切ってみせるわっ!」 

「そんな…」
 ああ、マーガレット、わたしのために泣いてくれるのね。なんて優しい子。
 わたしが男だったら、あなたのことを放っておかないわ。

「とんだ脳筋の無駄遣いって感じね」
 リリー、あなたのその言葉選びが好きよ。
 わたしが男だったら、あなたのことも放っておけないわ。

 あら、わたしって意外と浮気性だったのね。


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