円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 昔はアマガエルでも大きく見えたのに、大きな手のひらにちょこんと乗せられたアマガエルがとても可愛らしく見える。

 アマガエルは次の瞬間、ピョンと跳ねてレイナード様の横に立つナディアの腕に飛び移った。

 やった!
 ここでナディアが叫んで阿鼻叫喚の大騒ぎになり、レイナード様が「シア!こんな子供じみたイタズラをするだなんて!」って怒りだすのよっ!

 ナイス、アマガエルちゃん!
 もしかしたら、円満婚約破棄の神様がアマガエルに変身してくれたんじゃないかしら?

 そんなことを考えながら期待に胸を膨らませていたのに、ナディアはむしろ目を輝かせて黄色い声をあげた。
「なにこれ、可愛いっ!!」
 そしてアマガエルを普通に素手で掴んでなでなでし始めたのだ。

 しまった、海育ちのナディアにとってはゲテモノ系はなんでもござれだったかしら。

「そ、それは『アマガエル』っていうのよ。知らないの?」
 ちょっと意地悪く言ってみる。

「カエルっていう両生類がいることなら知識として知っていたけど、実物を見るのは初めてだわ。なんて可愛らしいのかしら」

「素手であまり長時間にぎると、カエルにとっては灼熱地獄にいるような状況だから、そろそろ放してあげてもらえないかしら」
 グエっという顔をしているアマガエルが心配になって早く逃がすように促すと、ナディアは紫陽花の葉の上に乗せて、それでもまだ尚、可愛い可愛いと言いながら見つめていた。

「海の魚も、人間の体温は高すぎるから素手でベタベタ触り続けると弱ってしまうの。カエルも一緒なのね。ステーシアさん、ありがとう。こんなにドレスを汚してまでカエルを探してくれただなんて、なんて献身的なの!」

 なぜかお礼を言われてしまった。

 その近くで、レイナード様は固まったまま、カインは大いに呆れた顔をしてわたしを見ていたのだった。


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