円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 髪はアップスタイルにして首にある傷痕もさらけ出している状態ではあるけれど、ファンデーションで薄くしてもらっている。
 さらにそこに、全体に花のモチーフがあしらわれているVラインのネックレスを短めに調整して首と鎖骨に沿わせてつければ、傷痕は全くわからなくなった。
 中心に向かってモチーフがだんだんと大きくなり、真ん中には大きなダイヤが光っているため、このダイヤの輝きの方に目を奪われるのが通常だろうと思う。

 このネックレスはちょうど一年前、レイナード様の立太子の記念に婚約者であるわたしにも贈り物をと王妃様から賜ったものだ。
 あのデビュタント以降も、この一年で何度かレイナード様とともに社交パーティーに招待されたけれど、いつも首元まで覆うドレスを着ていたためにこのネックレスを身に着けるのは初めてだった。
 
 もしかすると王妃様は、わたしの首の傷痕が目立たないようにという配慮でこのネックレスを選んでくれたのかもしれない。
 もっと早くそのことに気づけばよかった。
 このネックレスを身に着けるのは、これが最初で最後になるだろう。


 入口の方でわあっという声が上がるのが聞こえて振り返ると、レイナード様がナディアをエスコートして入ってくるところだった。

 レイナード様は王太子が公式行事のときなどに着用する正装を纏い、ナディアはオフショルダーでマーメイドラインの白いドレスを着ている。
 彼女の引き締まった健康的な身体に、マーメイドラインのドレスはとてもよく似合っていた。

「まるでお二人の結婚式のようね」
 そんな声まで聞こえる。

 本当に、よくお似合いの二人だと思うわ。
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