円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
「ね、ねえ、ステーシアさん」
 隣に立つルシードがまたカタカタと震え始める。

 忙しい人ね、あなたって。

「入って来るなりレイナード殿下が僕のことをずっと睨んでいるんですけど?」
「さあ、知らないわ。気のせいじゃなくて?」
「気のせいじゃないですってば!」

 ルシードは、わたしが名乗る前からわたしのことを知っていた。
 レイナード殿下の婚約者であるあなたが、なぜ僕をパートナーに?と聞かれたから、こちらも正直に説明済みだ。

 あなただって知っているでしょう?レイナード様とナディアさんが恋仲だって。だからわたしのことをエスコートしたくないご様子だったから、お断りしたのよ。
 でもドレスはすでに出来上がっているから、パーティーに出席しないわけにはいかないの。

 わたしの説明を頷きながら聞いていたルシードは最後に「それはわかりました。それで…なんで僕に?」と聞いてきた。
「それは、あそこであなたとぶつかりそうになったからに決まってるじゃない!」
 そう答えると、ルシードはまるで貧乏くじでも引いたような複雑そうな顔をしたのだった。

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