円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 戦闘の部隊編成で俗に「盾役(タンク)」と呼ばれているのは、部隊の最前列で大きな盾を持ち、敵の攻撃を一身に受けてひきつけながら戦線を押し上げたり、罠や攻撃役(アタッカー)が攻撃しやすい位置に敵を誘導する役割だ。
 タンクの立ち回りが下手だと、それだけで部隊がガタガタに崩れてしまうこともあるため、タンクは高い防御力と体力、気力、そして冷静な判断力を持ち合わせていなければならない。
 
「でもさ、ステーシアの身体能力が高いのは知ってるけど、タンク向きではないよなあ?」
 スタンが首をかしげる。 

 確かにそうだ。
 タンクは通常、大きな盾を持ち分厚い鎧兜の重装備を身につけるため、身軽であることよりも屈強であることが求められる。だから、体の大きな、いかにも「打たれ強い」人がその役割を担うわけで、女性には不向きだ。

「いや、タンクには『回避系』っていう、敵の攻撃を回避しまくるタンクが存在するんだ。いまの騎士団には回避系タンクはひとりもいないけどな」

 回避系タンク!
 なんか、かっこいいんですけどっ!

「でも…」
 少し言いにくそうにレオンが続けた。

「一対一だとかなり有利ではあるが、大規模な対人戦だと活躍できる場面は少ないと思う。なぜだかわかるか?」

 一対一の勝負だと、こちらはひたすら回避しまくれば相手の攻撃が当たることはない。
 ゆえに、ダメージを食らわない。
 最小限の動きで避け続けるには集中力は必要だが、攻撃が当たらないことにカッとなって剣を振り回し続ける相手の方が体力の消耗が激しいはずだ。
 相手の動きが鈍ってきたところで、隙をついて急所にナイフを突き立てれば終了だ。

 それに対して、人数の多い部隊での戦闘になると、盾役であるはずのわたしが最前線で飛んで来た弓矢や魔法を避けたらどうなる?

「後ろの人に当たってしまうわ」

「その通り」
 レオンが人差し指を立ててニッと笑った。

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