円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
第7章 騎士団の体験訓練
 騎士団の体験訓練が始まった。

 初日の朝、屋外訓練場に集められたわたしたちは開始時間を待つ間、思い思いに過ごしていた。

 さっそくストレッチをする者、友人の顔を見つけて駆け寄り談笑する者、特に女子たちは人数も少なく心細いのか一か所に固まって、ずっとおしゃべりしている。

 その中で異彩を放つのは、真っ赤な後ろ髪を無造作に束ね、厚ぼったく下した前髪で目元のほとんどを隠し、一言も発さないまま仁王立ちになっている女子生徒だった。
 何を隠そう、わたしだ!

 亜麻色の髪を赤く染め、母には学院の催し物の関係で一旦寄宿舎に戻ると嘘をつき、さらに騎士団のほうには実家が遠方であることを理由に騎士団の寮に宿泊させてもらう手はずをレオンに整えてもらっている。

「あんな生徒、うちの学院にいたっけ?」
「さあ?」

 ヒソヒソと指をさされて目立っているようだけれど、わたしがレイナード様の婚約者のステーシア・ビルハイムだとはバレていないようだ。 
 髪を赤く染めて正解だったわね!

 そこへ、訓練の指導を担当する騎士たちがやって来た。
 その先頭を歩く長兄の顔は、普段わたしに見せる表情とは違う、仕事をしている男の顔だった。

 レオンお兄様!かっこいい!

 ニマニマしてしまわないように唇を引き締めた。


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