円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 帰りの馬車の中で兄に感心されてしまった。

 これまで聞きたくてもどう聞いていいのかわからなかったマリアンヌの個人情報をわたしが短時間であっという間に聞き出しただけでなく、自宅に招く約束までしてしまったのだから。


 平民だと男女の恋愛は、性別問わずに仲間内でわいわい遊んだり食事に行ったりしているうちに、なんとなく二人きりで会う回数が増えていき、自然とカップルになっているというケースが多いと聞いている。
 学院内にも、友達から始まって恋人に発展した人たちもいる。

 そういう場合だと、改まって「好きです、お付き合いしてください」と告白して「今日からわたしたちは恋人同士です」となるのではなく、気が付いたらそういう関係になっていて、あとから「わたしたちって付き合ってるんだよね?」と確認したりするらしい。

 しかし貴族は少しそれとは事情が違う。
 長男や長女は特に、幼いころから許嫁がいて政略結婚するパターンが圧倒的に多く、自由な恋愛すら許されていない。
 我がビルハイム家は代々、政治よりも筋肉への執着が強いため、積極的に子供を政略結婚させる方針ではないけれど、それでもわたしは王太子殿下の婚約者にさせられてしまったのだ。
 
 レオンにも縁談がちらほら来ているというし、のんびり自然な流れで恋人に…とは言っていられない状況だ。

 レオンお兄様、ここまでお膳立てして明日マリアンヌに告白しなかったら、殺すわよ。


 帰宅して、母に「明日、レオンお兄様の想い人が来るから」と言ったら、大変な騒ぎになった。

 部屋に飾る花の手配を!だの、いますぐ庭師を呼んでちょうだい!だの、明日はどんな服装でお出迎えしようかしら!?だの…。

「いや、あのね、お相手は平民のお菓子職人さんだし、まだ恋人でもないんだから、あんまり大げさなことをして相手が引くと逃げられちゃうでしょう?」

「何時から何時までの滞在なの?お食事はどうしようかしら!?」

 ああもう、聞いちゃいないし!


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