円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
第8章 魔導具師
 長期休暇中に学院を訪れた。

 授業はないけれど、休暇中でも学院自体は開いている。
 図書室での読書や自主学習、専門学科では休暇中でも熱心に研究を続ける学生もいるし、様々な家庭の事情で実家に帰らない者もいる。

 わたしの場合は休暇中は自宅で過ごしているため、今日はビルハイム家の馬車でここまでやって来た。

 いつもの癖で中庭を覗いてみたけれど、そこにレイナード様とナディアの姿はない。
 いないだろうと見越して今日はいつもの「悪役令嬢スタイル」ではなく、とてもシンプルなワンピースを着て来たから体が軽い。

 初めて足を踏み入れた場所は、魔法科の校舎の中でも魔導具師を目指す生徒が集まる研究室だった。

 魔法科の校舎は、普通科のわたしにとっては目に飛び込んでくる物すべてが新鮮でわくわくする。
 床が木製ではなく石なのだけれど、クレーター状にへこんでいる箇所があったり、「立ち入り禁止」と書かれた板で塞がれたドアの隙間からこれまで嗅いだことのないような異臭と紫色の煙が漏れ出ている部屋があったり…。
 
 キョロキョロしながら奥を目指し、ようやく「魔導具研究室」と書かれた部屋を探し当てた。
 ドアを開けると、ボサボサの黒髪と丸まった背中が見える。

 やっぱりいた。
 何となく、いる気がしたのよね!

「ルシ、ごきげんよう」
 何かの設計図らしき図面を書いている様子のルシードに近づきながら声をかけると、驚いたのかビクっと肩を上げたあとゆっくりと振り返る。

「や、やあ、ステーシアさん。ご、ご、ごきげんよう?」

 ルシ、あなた嚙みすぎよ。
 しかも、声を掛けてきたのがわたしだとわかって、さらに怯えるってどういうことかしら。

「ダンスなら、僕はもう無理…」
「ちがうの、今日は魔導具師としてのあなたの腕を見込んでお願いがあるの」

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