円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
「魔導具の依頼ですか?」
「うん、話が早くて助かるわ」

 するとルシードは、とんでもないことを言った。
「僕の作る魔導具は納期が3か月後になりますけど、それでもいいですか?」

 な、なんですって!?
「どういう意味?そんなに注文が来ているってこと?」

 ルシードはこくこくと頷く。
「こうして休日返上で頑張って作り続けても3か月先ですね」

 どれだけ注文抱えてるのよ!
 もういっぱしの職人並みじゃないの。

「それ、代金を倍払うから順番早めて欲しいとかは…ないわよね」
「はい、そういうシステムではないです」
 
 こういう交渉のときは、ルシードの口調も表情も実にしっかりしている。

「残念。そうよね、すぐに作ってもらえると思っていたわたしが甘かったわ」

 ちなみにどんな道具の依頼だったのかと聞かれて、風のブーツだと正直に答えた。
 走るスピードが速くなりジャンプも高く跳べるようになるという代物だ。

 それがあれば、レオンと対峙しても捕まることなく逃げ回れるかもしれない。

「なんでまたそんな物を?」
 ルシードが首をかしげる。

「うちにいるゴリラがね、最近恋してて暑苦しくてかなわないの。だから鬼ごっこで負けたくないのよね」
 
「すごいな、伯爵家ともなるとゴリラを飼育しているんですね。運動も必要ですもんね。うーん…」
 長兄のレオンのことを冗談めかして言っただけなのに、しかも支離滅裂な理由なのに、それを素直に受け取って勘違いしているルシードが可愛い。

 推定年齢は16歳ってことになっているけど、実際はもう少し若いんじゃないかしら? 

「わかりました。既製品のブーツに風魔法を付与するだけなら手間ではないので、材料さえ揃えて持ってきてくれたらすぐに作りますよ」

「ルシ、ありがとう!材料はブーツ以外に何が必要かしら?」

 ルシードはにっこり笑って言った。
「鳥の羽です」


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