円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 大丈夫と言っていた割に、羽探しに夢中になりすぎて、結局足元を泥だらけにし、スカートの裾を水浸しにしたわたしは、御者に散々文句を言われた。
 ブーツが濡れるといけないと思って裸足になったのが返って失敗だったかしら?

「お嬢様!このままでは馬車の中が汚れてしまうので、乗っていただけません!」

「じゃあいいわ、歩いて帰るから」
 羽を6枚拾えたわたしは上機嫌だった。

 どろんこの足のままブーツを履こうとすると、また止められた。

「ご冗談はおやめください。こんな汚らしい装いで歩いていたと噂が立てば奥様に叱られますよ?まったくもう、お嬢様は自由すぎます」
 馬用の飼葉桶に池の水を汲んでわたしの足を丁寧に洗ってくれる御者は、なんだかんだといいながら面倒見がいい。

 スカートが濡れたままなので、馬車の中ではなく御者台に乗せてもらって帰った。
 空を飛ぶ鳥たちを見て、あんなふうに自由に国境を越えてどこか遠くへ飛んでいけたらいいのにと思う。
 わたしはちっとも自由なんかじゃない。

 レイナード様は今頃、ナディアの国で楽しく過ごしているのだろうか。
 あちらは着実に婚約破棄の準備を進めているというのに、わたしは騎士団の訓練では「猿回し」と言われ、野鳥の羽を求めてどろんこになって…まだ何も結果を残せていない。

 困ったわね。

 夕焼けに染まる空に、仲良く寄り添うレイナード様とナディアの姿が浮かんできて泣きそうになった。



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