円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 翌日、わたしは水辺で拾い集めたカモの羽を持って意気揚々とルシードの元を訪れた。

 昨日の帰りの馬車では夕焼け空のせいで黄昏(たそがれ)てしまったけれど、寝る前にしっかり筋トレをしてぐっすり寝たら、しょんぼりしていた気持ちは吹っ飛んでいた。
 これが脳筋のいいところだ。

「ルシ!おはよう!」
 またもやビクっと肩を震わせてからルシードは振り返る。

「おはようございます。上機嫌ですね」

「そうなの!見て、カモの羽を持って来たわ」

 得意げに差し出した6枚の羽を受け取ったルシードは、ひとつひとつ丁寧にそれを確かめている。
「使えそうなのは…これとこれかな。失敗したときのためにこれも…」

 失敗ってなに!?
「ねえ、失敗したらどうなるの?」

「風魔法の付与なので、最悪ブーツが細切れになります。あと、飛んで逃げていくこともあります」
 当たり前のように言うルシードが悪魔に見えてきた。

 細切れ?飛んで逃げる??
 なにそれ、怖いんですけど!

「汚れを落として魔法の付与がしやすいようにトリミングしないといけないので、また明日来てもらってもいいですか?明日はブーツを持ってきてください。工房の予約を取らないといけないんですが、午前と午後どちらにしますか?」

 ルシードは魔導具のことになると、普段のオドオドしている彼とは違って流れるように話す。
 もうよくわからないことばかりで首をかしげるわたしに、わかりやすく説明し直してくれた。

 羽は拾ってきたそのままを使うのではなく魔法を付与しやすくするための下準備が必要で、それは今日中にルシードがしてくれるらしい。

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