円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 工房とは、学院内では魔導具を制作する工程の中で魔法を付与する作業は、工房という部屋で行わなければいけない規則があって、事前に何を作るのか、どういった作業をするのかという申請を出して予約しておかないといけないのだそう。
 学生たちはまだ魔導具師の卵だから、工房を使用する際は教師が立ち合うことが多いけれど、ルシードはもう仕事の依頼が来るほどの技術と経験があるため、風のブーツを作る程度では教師の立ち合いはないだろうとのことだった。

「でも2か月前に、付与に失敗して指がちぎれかけてからは、医務室の先生がいる時間帯にしか使用許可がおりなくなってしまったんです」 

 ええぇぇぇっ!?
 今、さりげなくまた怖いこと言わなかった!?

 思わずルシードの手を取りよく確かめたけれど、指は10本ともくっついている。

「ちゃんと治してもらったので大丈夫ですよ。魔導具師にこういうケガはつきものですから」

 指がちぎれかけるのが日常茶飯事ってこと?
 魔導具を作るのって命がけなのね…。

 魔導具の歴史を知る上で画期的な発明として授業でも採り上げられることの多い「冷蔵庫」は、生の食材が痛むのを防ぎ常温よりも長い日数保管できる保冷箱だ。
 それ以前、上流階級は自宅の地下に、周囲を氷漬けにした氷室を備えていたのだけれど、それをもっと小型化し、メンテナンスも定期的に魔石を交換するだけで済む冷蔵庫は、今では一般家庭にも普及している。

 その開発の裏には、何度も氷漬けになった魔導具師がいたのかもしれない。

 体を張っているのは騎士だけだと思っていたら大間違いね。
 首に傷痕があることにこだわっているなんて滑稽だわ。
 ルシードは、指がちぎれかけてくっつけて、そんなことを繰り返しているんですもの。


 魔導具師の過酷な実態と、医務室の先生の優秀さを思い知る一日となった。


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