円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 なるほど、だから天井が高いんだ…と感心しながら真上に向けていた視線をルシードの手元に戻すと、ブーツの側面に羽がぴったり張り付いて同化し、模様のように革に馴染んでいた。

「はい、どうぞ。逃げないように持っておいてください」

 その出来上がったばかりと思われるブーツをわたしに手渡し、ルシードはもう片方のブーツに取り掛かり始めた。 
 
 え?逃げないようにって?

 魔導具師なりのジョークなのか本気なのか、よくわからないままブーツを見ると、わたしの腕の中でカタカタと動いたような気がして慌てて強く抱きかかえた。

 そのときまたルシードから上昇気流がわき上がり、もう片方のブーツも完成したようだった。

 左右対になったブーツを作業台に並べると、またしばらくカタカタと動いたあとおとなしくなった。

「ありがとう、ルシ。お疲れさまでした」

「大事に可愛がってあげてくださいね。そうじゃないと、カモの羽だから北の国へ飛んで行っちゃうかもしれませんよ」

 にっこり笑う顔は、ジョークなのか本気なのか、やっぱりわからなかった。

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