円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 グリマン男爵家では、突然の訪問にもかかわらず男爵夫人――ルシードの養母が歓待してくれた。

「まあ、お会いするのは初めてかしらね。お噂通りの素敵なお嬢様だわ。パーティーのときはルシードを誘っていただいてありがとうございました。この子ったら血相を変えて突然帰って来て『ダンスのパートナーにって言われたんだけど着る服がない』って泣きそうになっていたのよ?まあ、この子がそんなことを言う年齢になったのねーって感慨深くてね」

 ハイテンションでしゃべり続ける夫人の髪もまた銀髪だ。
 応接室に案内される途中、廊下に飾られていた肖像画で確認したけれど、グリマン男爵夫婦はともに銀髪だった。
 血統を守るために遠縁同士で結婚する家門もあると聞く。

 一族が銀髪だらけなら、ルシードの黒髪はさぞや目立つことだろう。
 だからディーノがルシードを毛嫌いしている理由もわからなくもない。きっと彼にとってルシードは異端すぎるのだ。

 でも夫人のほうはどうやらルシードを溺愛しているらしい。
 さっきからずっと、引き取って来たばかりの頃のルシードはやせ細っていて軽々抱っこできるほどだったとか、好きな食べ物は柑橘系のフルーツだとか、最近はあまり家に寄り付かなくなって寂しいだとか、ずっと話し続けていて、隣に座るルシードに目をやると、ごめんなさいという顔をされた。

「奥様、本日はわたくし、謝罪に参りましたの」
 どうにか話が途切れたところで、今日学院で起きた出来事について切り出した。

「奥様の耳にも入ってらっしゃるでしょうから、わたくしがレイナード殿下とのことであれこれ言われる分には全く構いません。ですが、ルシードまでお兄様に悪く言われてしまうのが申し訳なくて、思わずカッとなってお兄様のことを膝蹴りして外にぶん投げてしまいましたの。大変失礼しました」

「まあ…。先ほど帰宅したディーノがボロボロだったのはそのせいだったのね」
 夫人は目を見開いて言葉を失っている。

 頭を下げて謝罪しようとソファから立ち上がったところで、夫人も立ち上がりわたしの手を握ってきた。
「よくぞやってくれました!」

 ええっ!?

「あの子の素行が悪くて手を焼いていたの。親がいくら言っても聞かないし、かといって親が手をあげるのも逆効果だし、どうしたものかと思っていたのよ。あの子には多少荒っぽいお仕置きが必要だったんだわ。ステーシアさん、ありがとう!」

 なんだか、感謝されている!?



< 84 / 182 >

この作品をシェア

pagetop