円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 是非またいつでも遊びに来てちょうだいね、と笑顔のグリマン男爵夫人と、もう二度と来るなっ!という顔をしているディーノと、苦笑を浮かべるルシードに見送られてグリマン男爵家を後にした。

 いつもの御者に「どこでもいいから広い場所に寄って」とお願いすると、すごく嫌そうな顔をされた。

「今度は何をなさるおつもりですか?」

「そんなに警戒しなくていいわ。今日はちょっと走り回って飛び跳ねたいだけだから」

 立場とご年齢をお考え下さい、そうため息をつきながらも、わたしが一度言い出したら聞かないことをよく知っている御者は、高台の原っぱに連れて行ってくれた。

 早速「風のブーツ」に履き替える。
「さあ、カモちゃん、行くわよっ!」

 馬車の扉を開け、手を差し出す御者に「必要ないわ」と笑顔で告げて勢いをつけて飛び出すと、普通ではありえないぐらいの距離を飛んだ。
 衝撃も全くなく、ふわりと軽く着地した。

 振り返ると、御者が驚いた顔であんぐり口を開けて固まっている。

 それに構うことなく、わたしは全速力で走り回って、飛び跳ねて、転がりまわった。

 楽しいっ!

 あとから御者に「残像が見えるぐらい速かった」と言われて、大満足の出来栄えとなった風のブーツ、通称「カモちゃん」を大事に可愛がろうと決めたのだった。
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