円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 翌日、わたしはまた魔導具研究室にやって来た。
 風のブーツを試してみた感想と、あらためてお礼を言いたかったためだ。

 研究室をのぞくとそこにはルシードとディーノがいた。
 まさか舌の根も乾かぬうちにもうイジメを!?と思ったらそうではなく、仲良く二人で設計図を描きながら談笑しているではないか。

 思わずクスっと笑うと、その気配を感じたのか振り返ったルシードがわたしの姿を認めて「ひっ」と喉を鳴らした。

 だから、怯えないでほしいわ。

「ごきげんよう、グリマン家のご兄弟。今日は改めて風のブーツのお礼を言いに来ましたの」

 残像が見えるぐらい速かったと報告したら、二人は顔を見合わせて首をかしげ始めた。

「カモの羽だろ?」
「うん…おかしいですよね」

 え、何がおかしいの!?

「普通はカモごときでそこまでの効果が出るはずないんだ」

 まあ、カモごときですって?
 やめてちょうだい、そんな言い方をしたらカモちゃんが拗ねて北の国へ帰ってしまうわ!

 じゃあ実際に見せてやろうじゃないのと鼻息荒く学院の運動場へと出て、カモちゃんに履き替えた。
「カモちゃん、わたしたちの実力を見せつけてやりましょ」
 すっかりブーツに同化している羽模様をなでると、ふわりと風が吹き抜けていく。

 軽くステップしたあとに、ビュンと加速して運動場を駆け抜け反対側に立っている二人の元へとたどり着くと、グリマン兄弟はあんぐりと口を開けて固まっていた。
 昨日の御者と一緒だ。
 そんなに驚くほど速いんだろうか?

「なあ、ルシード。『虎に翼』って言葉知ってるか?」
「うん…ただでさえ強いのにもっと強くなれる物を手に入れちゃったって言いたいんでしょう?」

 あら、素敵っ!


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