円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 ちょっとこっちに来いと有無を言わさずディーノに腕を引っ張られて研究室へと連行された。

 残像が残るほど速いってことを証明しようとしただけなのに、どういうこと!?

「ステーシアさん、あれでどれぐらい本気だった?もっと速く走れたりしますか?」
 恐る恐る聞いてきたルシードにこちらも正直に答える。

「ルシードたちの前で止まらないといけないと思ったから、もちろん手加減はしたわよ?これがもっと…たとえば殺人鬼に追いかけられているような状況だったりしたら、もっとうんと速く走れるんじゃないかしら」
 もちろん、そんな状況に遭遇しないことを願っているけれども。

「お兄様…」
「ああ…」
 なぜ二人ともそんなに青ざめているのかしら。

「ステーシアさん、僕ら魔導具師は殺傷能力の高い物を作る場合は事前申請が必要なんです。しかも、学生はそんなものを製作することは禁じられています」

「ええ、それぐらいの知識ならわたしにもあるわよ」

「だから!」
 ディーノが苛立ったように大きな声をあげる。
「あんた、人間兵器みたいなってるんだよ!そのブーツで!切れ味の鋭いナイフを持ってあのスピードで走ったら、誰が切り付けたかわからないまま人を殺せると思う。言ってる意味わかるか?」

「まあ!暗殺者(アサシン)ね!?素敵っ!」 

「ああぁぁぁっ、わかっちゃいねーし!」
 喜ぶわたしの目の前で、ディーノが綺麗な銀髪をぐちゃぐちゃにかきむしりながら叫んだのだった。

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