円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 グループに分かれて夕飯のための準備が始まった。

 焚火用の薪を用意する係、沢で魚を捕まえる係、食材を串にさして炙りやすく加工する係にそれぞれ分かれて準備を進めた。

 わたしは食材加工担当になってしまった。
 女子だから力が必要ない作業がいいだろうと気を遣ってもらったのかもしれないけれど、正直細かい作業はあまり得意ではない。
 
 魚を捕まえる係になりたかったのにい!
 しかし、魚係にはレイナード様もいたから交代を申し出るのはやめておいた。
 そばにいる時間が長くなればなるほど、ボロが出そうでこわい。

 悪戦苦闘しながら牛肉の塊を一口大に切っていると、同じく食材加工係になったコンドルが「あれ?」と首をかしげている。

「肉ってこれだけだったか?馬車の荷台にもっと積んであった気がするけど」

 肉がどれぐらい用意してあったかなんて、どうでもいい。

「気になるならもう一度馬車の荷台を見てみればいいんじゃないの?あそこの木立の向こう側に停めてあったと思うけど」
「わかった、俺ちょっと見て来るから!」

 走っていくコンドルを見送って、再び牛肉の塊と格闘しはじめたときだった。

「うわあぁぁぁっ!」
 木立の向こうからコンドルの悲鳴が聞こえてきた。

 作業の手を止めて振り返ってみたけれど、木立に隠れて何が起きているのかよく見えない。
 ほかの生徒とともに悲鳴が聞こえた方向へと走って行った時、ブワッと吹いた風で土埃が舞い上がり、目に入るのを腕を上げて防いだ。

 土埃が収まるのを待って前方を見ると、なんと肉を抱えたコンドルをグリフォンが大きな鉤爪でしっかり捕えて飛び立とうとしているところだった。

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