円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 グリフォンは、上半身がワシ・下半身がライオンという魔物だ。
 おそらく荷台に放置されていた牛肉の塊をねらってやって来て、肉を抱えたコンドルごと巣に持ち帰ろうとしているのだろう。
 しかし、グリフォンにしては体が小さいため、コンドルを捕えたまま浮上するのに手間取っている様子だ。

 人間のそばに寄ってきたことや小柄なことからすると、このグリフォンはまだ子供なのかもしれない。

「隊長ぉぉぉっ!コンドルがグリフォンにっ!!」
 数人が叫びながら隊長たちを呼びに行く。

 そこは「コンドル」じゃなくて、ちゃんと「フレッド・ハウザーくんが」って言わないと、わかりにくいんじゃないの?とか冷静なことを考えている場合ではない。

「その肉を向こうへ投げろっ!」

 誰かの指示に応じてコンドルが肉を横に投げた。
 これでグリフォンが彼を放して肉の方へ行ってくれたらしてやったりだったのだけれど、いきなり大勢の人間が現れてもう肉どころではなくなったのか、グリフォンは地面に転がる肉には見向きもせずにコンドルをしっかりと捕らえたまま羽ばたきを続ける。

 こうなると、コンドルが手放した肉の重さ分、軽くなるわけで…。
 コンドルの足が地面から離れ始めた。

 もうっ、誰よ!肉放せとか言った馬鹿はっ!

 振り返って、後ろに立っていた生徒に向かって叫んだ。
「ちょっと、そこのあなた!四つん這いになって!」

「は?」
「『は』じゃなくて『はい』でしょ!時間がないんだから早くっ!」

 わたしの勢いに気圧されて四つん這いになったその背中に片足を乗せると、ブーツをポンポンと軽く叩いた。
「カモちゃん、見せ場よっ!」

 風が舞い上がる。
「踏み台にして失礼」

 両脚とも乗せると膝を曲げてジャンプし、目の前の木の枝に飛び移った。

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