円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 そのまま、まるでサルのように身軽に木の上の枝へ、またその上へと飛び移っったところで、グリフォンと目が合った。

「ねえ、グリフォンちゃん、そんな美味しくなさそうなコンドルよりも、わたしのほうが美味しいと思うわよ?」
 そう言いながらシャツのボタンを外し、胸の谷間をちらりと見せた。

 こっちのほうが柔らかいお肉よ、というアピールのつもりなんだけれども、もしもこれでグリフォンが見向きもしなかったらすごく恥ずかしいやつだ…。

 一瞬不安になったけれど、グリフォンは見事にこれに食いついてきた。
 コンドルを放し、こちらへ向かってくることを確認してまた枝から枝へと飛び移り、地面に軽やかに着地する。

 グリフォンに落っことされたコンドルが、先ほどの踏み台にした生徒たちに助けられた様子が視界の端に入り、安堵しながら猛ダッシュで走り始めた。

 もう「ほどほどに」とか言っていられない。
 グリフォンに捕まったらおしまいだ。

 そのままトップスピードを維持しながら武器を持ってこちらへ駆けつけようとしていた騎士たちの元へとグリフォンを誘導した。
 弓矢での攻撃を受けて、グリフォンのターゲットがわたしから外れた。

 グリフォンは攻撃に抵抗してギャアギャア鳴きながら旋回と急降下を繰り返している。

「よくやった!あとは俺たちに任せて安全な場所へ下がっていろ!」
 隊長がわたしを庇うように目の前に立った。

「はい」
 言われなくてもそうします。わたし、弓は使えないので。

 あまり目立ちすぎないように静かにゆっくりとその場を離れて後退していくと、ちょうどコンドルも肩を貸してもらいながら戻ってくるところだった。

「コンドル!何やってるのよ、馬鹿ねえ」
「死ぬかと思ったあぁぁぁ」

「泣かないの!馬鹿ね」
 抱きしめて慰めるふりをしながら、コンドルの背中にくっついていたグリフォンの羽を取った。

 やった!グリフォンの羽ゲットよっ!
 これでルシードに何を作ってもらおうかしら!?  
 
 しめしめと思いながら羽をポケットに入れたところで、後ろから肩をグイっと掴まれた。

 バランスを崩し「おっとっと」となりながら見上げると、レイナード様が険しい顔をしてわたしを睨んでいるではないか。

 沢から戻って来たのね?

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