婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
1.
 リンゼイ王国。自然が豊かで長閑な国である。人口は五十万人程度。隣国との国境にあるボワヴァン山脈には、魔導具製作に欠かせない魔宝石(まほうせき)の原石が採掘できる鉱山がある。
 魔宝石の採掘には魔導士の力が必要であるため、リンゼイ王国にはこの採掘を担当する魔導士たちが、魔導士団の中に存在する。それくらい、魔宝石の採掘というのはこの国にとって重要なこと。
 そして、その魔法と魔宝石によって、この国の人々には豊かな生活がもたらされていた。

 魔導士たちの中でも代々優秀な魔導士を輩出するコンラット公爵家。リンゼイ王国の三大魔法公爵家とも呼ばれており、コンラット家の血筋は優秀な魔導士、もしくは魔導具師となる者が多い。現当主のコンラット公爵も、魔導士団長という役を担っている。
 だが、三大魔法公爵家にも悩みはあった。なぜか、この三大侯爵家。男児しか生まれないのである。世継ぎには困らないのかもしれないが、やはり欲を言えば女児も育ててみたいというのが親心。魔力が強いが故に、男児しか生まれないのだろう、とも言われていた。
 だからコンラット公爵も、夫人が四人目の子を授かった時に、男の子だろうと思って男児のものしか準備をしていなかった。
 赤ん坊の元気な産声が聞こえたと同時に、立ち会った侍女頭が勢いよくコンラット公爵を呼びに来た。

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