婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
 伏せていた顔を起こして、リューディアはそのお茶を受け取る。もわんと湯気が漂い、口元を近づければ眼鏡が曇る。

「これでは、何も見えません」
 リューディアは慌てて眼鏡を外す。眼鏡をかけることで、周囲のいろいろな()()から守ってくれるけど、気温差で曇ってしまうのが難点だった。眼鏡が曇ってしまうと、何も見えなくなってしまい、新たな危険が生まれる。
 リューディアは元々視力が悪くて眼鏡をかけていたわけではない。だから、眼鏡を外しても視界は良好。その良好な視界の先には少し呆けているエメレンスの顔。

「レン、どうかしました?」

 不思議そうにリューディアは首を傾けた。

「あ、う、ううん。なんでもないよ。眼鏡は曇ると何も見えなくなっちゃうから、それが不便だよね」

 エメレンスは慌てて手にしていたお茶に口を近づけた。自分の気持ちを悟られないように。
「あ、あちっ」
 慌てていたからか、冷めないうちに口をつけてしまったようだ。

「大丈夫ですか? 火傷、しましたか?」
 エメレンスの声に驚いたリューディアは立ち上がって、彼の元へと近づき、その彼の顔を覗き込む。
「あ、だ、大丈夫だよ。ディアもお茶が熱いから気を付けて」
 眼鏡をかけていないリューディアの顔が近い。

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