婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
7.
 モーゼフは定期的に孤児院の慰問を行っていた。これに同行していたのは、いつもであれば婚約者であったリューディアという女性。彼女は子供が好きなのか、いつも楽しそうに笑顔を振りまきながら、子供たちと接していた。モーゼフとしては、その姿を見ても胸が締め付けられるように苦しくなることが多々あった。それが、子供たちに対する嫉妬心であるということにすら、本人は気付いていない。モーゼフにとっては、彼女は自分を苦しめる存在である、と同時に、自分の心に幸福感も満たしてくれる存在であると、そう思っていた。
 しかし今は隣に彼女はいない。誰もいない。結婚しましょうと口にしているフリートさえもいない。たった一人での慰問。
 リューディアとの婚約を解消したからという理由で、慰問を辞めようとは思わなかった。今まで行っていた物を急遽取りやめるということは物事の変化を示す。そしてその変化を敏感に感じ取るのは子供たちなのだ。だからだろうか。モーゼフが一人でここに来たことでさえ、子供たちは敏感に反応した。

「リューディアさまは?」
 と無邪気に尋ねてくる子供たち。にこやかに微笑んで、誤魔化していたモーゼフだが、モーゼフ自身、なぜ彼女がここにいないのだろう、という疑問に支配されていく。

 なぜ、自分は彼女にあのようなことを口走ってしまったのか。押し寄せてくるのは後悔と、そして謝罪の気持ち。彼女の悲しそうな笑みが、頭にこびりついて離れない。そして、それを打ち消すかのように、なぜかあのフリートの妖艶な笑みが、頭の中に浮かんできた。

 苦しい。なぜ、こんなにも胸が痛むのか。

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