婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
「それよりも。君は一体、誰なんだ」
チッと、はしたなくフリートは舌打ちをする。どうやらモーゼフにかけている魅了の効果が薄れてきているようだ。彼と会うときは、それを維持するために魔導具で香を焚いていた、というのに。もしかして、長く使い続けたせいで耐性ができてしまったのだろうか。
だが、婚約発表までもう少し。それまでは、このモーゼフにはこのままでいてもらう必要がある。そのために、あのリューディアという憎たらしい娘を蹴落としたのだから。
「ねえ、モーゼフ。私の目を見てちょうだい。あなたが好きなのは、私よ。リューディアなんていう、小娘なんかじゃないの」
一層、甘い香りが強くなる。
モーゼフが好きなのは、この香りではない。春風のような爽やかな香り。リューディアが現れると、ふっと鼻をかすめる石鹸のような香り。
次第にモーゼフの瞼がとろんと重くなっていく。
なぜ、こんなに頭がはっきりとしないのか。モーゼフにはわからない。
彼はそろそろ二十歳の誕生日を迎える。それと同時に立太子の儀が行われるはずなのだが、さらに同時に行われるのがこのフリートとの婚約発表だ。
違う、そうではない、と思いながらも、モーゼフは重くなっていく頭と瞼に抗うことはできなかった。
チッと、はしたなくフリートは舌打ちをする。どうやらモーゼフにかけている魅了の効果が薄れてきているようだ。彼と会うときは、それを維持するために魔導具で香を焚いていた、というのに。もしかして、長く使い続けたせいで耐性ができてしまったのだろうか。
だが、婚約発表までもう少し。それまでは、このモーゼフにはこのままでいてもらう必要がある。そのために、あのリューディアという憎たらしい娘を蹴落としたのだから。
「ねえ、モーゼフ。私の目を見てちょうだい。あなたが好きなのは、私よ。リューディアなんていう、小娘なんかじゃないの」
一層、甘い香りが強くなる。
モーゼフが好きなのは、この香りではない。春風のような爽やかな香り。リューディアが現れると、ふっと鼻をかすめる石鹸のような香り。
次第にモーゼフの瞼がとろんと重くなっていく。
なぜ、こんなに頭がはっきりとしないのか。モーゼフにはわからない。
彼はそろそろ二十歳の誕生日を迎える。それと同時に立太子の儀が行われるはずなのだが、さらに同時に行われるのがこのフリートとの婚約発表だ。
違う、そうではない、と思いながらも、モーゼフは重くなっていく頭と瞼に抗うことはできなかった。