婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
 あのメイソン侯爵家の娘があれだけの魔力を秘めていたというのが、モーゼフにとっての大きな誤算だった。だからこそ、彼は自嘲気味に笑う。己の失態を恥じるしかない。

「それに。兄上が利用しようとしていた相手は、リューディアだって例外ではなかったはずだ」
 そう、モーゼフは婚約者であるリューディアを利用しようとしていた。以前から黒い噂が絶えなかったメイソン侯爵家をあぶり出す為に。そのための婚約解消といっても過言ではなかった。だが、すでにフリートの魔の手が忍び寄っていたのだ。あのような形で婚約解消をしてしまったことだけが、モーゼフにとっては悔やまれる。だが、自分が完全に悪役になれたことだけは良かったのかもしれない。

「それでも、私が彼女を好んでいたのは紛れも無い事実だ。だからこそ、巻き込みたくなかった。それに、彼女が側にいる限り、私はこの国を守り切ることはできないだろうと、そう思っていたからね」
 初めて出会った時から彼女に惹かれた。彼女の気を引きたくて、彼女を傷つけるような言葉を口にしていた。だが、いつからかそれは、彼女から離れるための手段の一つとなる。

「つまり、兄上は愛する女性よりこの国をとった。そういうことになるわけですよね」

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