婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
「ボクがディアに向かって、ブスと言うわけはないでしょう? 兄上でもあるまいし」
 それを聞いたモーゼフは顔を歪ませた。恐らく、ブスとは言わないまでも、それと似たような言葉で、彼女が顔を隠すように仕向けたに違いない。だからこの弟は狡いのだ。
 そして、だからこそ彼女は思っているはず。自分がブスだから眼鏡をかけている、と。心許す人物の前でしかそれを外すようなことはしない、と。それがこの男のやり方なのだ。

 ふん、とモーゼフは鼻から息を吐く。我が弟ながら、歪んでいる。
「だが君は、彼女が自分の側から離れないようにと、彼女に気付かれないように囲い込んだのだろう? 我が弟ながら、鳥籠のような男だと思ったよ。だがな、君のその愛し方は危険すぎる」

「兄上だけには言われたくないなぁ」
 モーゼフはそれには頷かない。

「それでも君の鳥籠は壊されてしまった。ヘイデンによって、な」
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