婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
 モーゼフの言葉にエメレンスは苦笑した。ヘイデンがリューディアをあのシャルコへと連れ出したおかげで、彼女は自分に自信を持ってしまった。せっかく、大事に籠の中に閉じ込めて、外の世界から遠ざけていたというのに。リューディアという鳥はヘイデンの手によって鳥籠から逃げ出してしまったのだ。
 さすが、次期コンラット公爵。もしかしたら、エメレンスの企みに気付いていたのかもしれない。それでも、リューディアとエメレンスのことを認めてくれたのは、ヘイデンなりに何かしら考えがあるのだろう。モーゼフにとっても敵に回したくない相手が、あのヘイデンだ。コンラット公爵家とは、良好な関係を築いておきたい。

「エメレンス。それでも君ならリューディアを幸せにしてくれるだろうと、どこか期待している私がいる」

「ええ。それだけは約束します」
 エメレンスは悦楽の笑みを浮かべている。鳥籠から逃げた鳥なら、またそこに戻ってくるようにすればいいだけだ。必ず自分の元へ、彼女が戻ってくるように、と。
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