婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
 こんな執拗な歪んだ愛され方をされているリューディアは可哀そうだと思うものの、それでも彼女を思わずにはいられない。それだけ、エメレンスにとってリューディアという女性は特別な存在なのだ。

 ――世の中、知らない方が幸せなことだってある。

 そんな弟をモーゼフは黙って眺めていた。エメレンスにはリューディアのような優しくて純粋な女性が必要だ。この弟の歪んだ愛情を矯正できるのは彼女しかいないと、兄はそう思っている。

 だから、エメレンスにリューディアを託したのではない。むしろ、リューディアにエメレンスを託したのだ――。

 こんな兄弟に囚われてしまった彼女を憐れむとともに、それでも彼女に期待を寄せて。


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