婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
「そうですか……」
 眼鏡を外さずに済むのであれば、それにこしたことはない。

「この話は承諾してもらえた、と解釈していいのだろうか?」

「わたくしに拒否権は無いと思っております」

「可愛げもない。その眼鏡をはずし、涙でも見せて、お許しくださいと一言叫んでくれれば、考えなおす余地もあったのだが。やはり君は不細工だ。いつの間にか、その心の中まで不細工になってしまったようだな」

 ――ブス。

 突然、あの時に言われた言葉が、頭の中に鳴り響いた。それはモーゼフと初めて出会った日。彼はリューディアを一目見た瞬間、そう言ったのだ。

「それは、わたくしの立場を踏まえての発言です。殿下が決められたことに、わたくしが反論できるとお思いですか?」

「私が聞きたいのは君自身の本心だよ」
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