婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
「それは、もちろんです。何よりもディア本人の意思が優先されます」

「そこまで言うなら。この話をお前の方からディアにしてみろ」

「わかりました。父上の許可が出た、と解釈しておきます」

 そう言ったヘイデンはくるりと後ろを向き、この執務室から出ていこうとする。そして扉の前で立ち止まれば、もう一度父親の方を向く。

「仕事があるので、また官舎の方に戻りますが。近々、妻と共にこちらに来ますので。そのときは、ディアを魔導士団の方に連れていくことになると思ってください」

「そ、そうか……。できることなら、ミルコとヴィルも連れて来てくれ」
 ミルコとヴィルとはヘイデンの息子、つまり公爵からしたら孫たちのこと。

「わかりました。では、失礼します」
 ヘイデンは一礼して、部屋を出て行った。パタンという乾いた扉の音が、コンラット公爵の心に突き刺さった。そろそろ、本当に子離れ、というよりも娘を解き放つときが来たのだろうか、と。そう、思っている――。

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