婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
「え?」
 ヘイデンがここまで念入りに確認することも珍しい。いつもなら、父親と同じように「そうかそうか、いいぞいいぞ」と、リューディアの話を詳しく聞く前に答えているのに。

「まあ、いい。ディア、君を困らせたいわけじゃないんだ。ただ、確認したかっただけ」

「お兄さまはいつもお優しいですからね」

 そうやってリューディアがニコリと微笑めば、ヘイデンは口を噤んでしまう。父親にはあれだけ強気に発言できたのに、この可愛い妹の前では言い淀んでしまうのは何故だろう。そんな夫の変化を敏感に汲み取ったのが、彼の隣に座っている妻。その言葉の続きを奪い取る。

「ディア。単刀直入に言うわ。私たちの仕事を手伝って欲しい」

「え?」

「メリー。単刀直入すぎる。もう少し、説明してあげようよ」

「あら、あなたが可愛い妹に嫌われるのが怖くて、なかなか言い出せないようでしたから、私の方から伝えてあげただけですよ」

「それは、申し訳ない……」
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