婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
 兄もこの妻には頭があがらない。それでもリューディアから見たら、お似合いの夫婦だと思うし、いつか自分もこのような温かい空気を作れるような人と一緒になりたいと思っている。残念ながら、今はそのような相手がいなくなってしまった。

「ディア。あなた、魔導士団でお仕事をしてみる気はないかしら?」

「え? わたくしが、魔導士団で、ですか?」

「そうよ」
 イルメリが大げさに頷く。

「先日、ボワヴォン山脈の鉱山で落盤事故が起こったのは知っているかしら?」

「いいえ」
 と答えると同時に、リューディアは首を横に振った。そしてこれは「いいえ」が正解。この話はまだ公表されていないものだから。

「そうね、まだ公になっていない話だから。ディアが知らなくても問題ないわ」
 そこでイルメリは喉を潤すかのようにカップに手を伸ばした。
「ああ、ごめんなさい、ディア。ちょっと喉が渇いて」
 いえ、とリューディアは義姉の顔を見つめる。これから義姉が何を言い出すのか、が気になっているのだ。
「それで。落盤事故によって、何人かの魔導士たちがお休みを取るようになってね。それで、まあ、あれよ。完全に人手不足」

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