婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
「そうだ、リューディア。前々から言っていたように、お前の名前はリディア・オーストンということになっている」
 魔導士団の採掘部隊で仕事をするにあたり、ヘイデンはリューディアに新しい名を与えていた。オーストンという姓はイルメリの実家のもの。つまり、リューディアはイルメリの妹という設定になっているのだ。
「まあ、俺たちはお前のことをディアと呼ぶから、あまり気にはならないと思うが」

「リディア・オーストン……」
 リューディアは新しく与えられた名を口にする。それを口にしただけで、新しい自分になれたような気がするのが不思議だった。

 魔導車はコトコトとシャルコの街へと向かっている。リューディアはシャルコの街で、兄夫婦が住んでいる官舎にお世話になる予定である。部屋は空いているから、リューディアの為に一部屋、もしくは一軒家を準備することも可能なのだが、元々引きこもりのリューディアを一人で生活させるにはいささかというよりは大変不安であったため、イルメリが一緒に暮らしましょうと提案してくれた。これには二人の甥っこも大喜びで、大喜びの結果が今、リューディアの両脇を陣取ってこうやって幸せそうに眠りについている、というわけである。

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