婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
「姫さんの妹らしく、可愛らしい顔立ちをしてんな。手なんか白くてきれいだし、こんなんで採鉱の仕事なんてできんのかぁ?」
 いかにもリューディアを見下しているような言い方だ。

「あんた」
 間に入ってきたのは銀のお盆で水の入ったグラスを五個持ってきたふくよかな女性。
「そうやって、女性を馬鹿にするような言い方、私が許さないよ」

「ふん」
 ガイルはひくっと鼻の穴を大きく膨らませると、厨房の方へと逃げていく。

「せっかく食べに来てくれたのに、気分を悪くさせて申し訳ないね。お詫びにデザートをサービスするから許してやって。あの人も悪気があるわけじゃないんだけどね。やっぱりね、まだ、慣れないっていうかね。それでもね、あんたたち夫婦がここに来てからは、随分仕事がしやすくなったって、喜んでるんだから」
 と言う女性の顔は優しい。このふくよかな女性は、あのガイルの妻。だからこそ、ガイルにあのような口調で話しかけることができるのだ。
「デザートは、アイスでいいかい?」
 ミルコとヴィルが「あいすー」「あいしゅー」と喜び始めたため、食後のデザートが決まってしまった。
 注文をとった彼女も厨房の方へと消えていく。

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