婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
「いつも贔屓にしてくださってありがとうございます。あら、こちらの方は?」
 ヘイデンやスージーの口ぶりからするに、彼らは顔馴染なのだろう。だからこそ彼女はリューディアに気付いた。

「え、と。リディアです」
「リディアは妻の妹でね。明日から、採掘場で働き始めるんだ」
 ヘイデンが言うと、うんうんとイルメリも首を振っている。

「え、てことは。リディアさんもお父さんの上官になるの? 見たところ、私と同じくらいの年に見えるんだけど。いくつ?」
 同じくらいの年に見えるからこそ、リューディアには親しみをこめて砕けた口調で話してくるのか。
「え、と。十八になったところです」

「やだぁ、同い年じゃない。ねえ、あのね、ホント、お父さんたらむかつくからさ。顎で使ってやって。リディアさん、この街は初めて?」

「あ、はい」

「お仕事、休みの時は遊んでね。私、街を案内してあげる。よろしくね」
 スージーの屈託なき笑顔が眩しい。
「あ、この卵とじ丼。この食堂の看板メニューなの。スープとサラダはお替り自由だから。蓋をとるときも熱いから、気を付けてね」
 スージーはスープやサラダをテーブルの上に並べ終えると「ごゆっくり、どうぞ」と言ってカウンターの方へと戻っていく。

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