婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
「ここは、採掘師のガイルの家族がやっている店なんだ。この卵とじ丼、本当に美味しいから食べてみて」
 ヘイデンがどんぶりの蓋を開けると、もわんと白い湯気が美味しそうな香りと共に立ち昇る。イルメリも子供たちのどんぶりの蓋をあけて、小さなお椀に取り分け始める。
 リューディアも同じようにどんぶりの蓋をとった途端、真っ白い湯気に襲われてしまい、眼鏡も真っ白に曇ってしまった。

「ディア、まっしろけ」

 リューディアの眼鏡が曇ってしまった事に気付いたミルコとヴィルが笑っている。

「これでは、何も見えません」
 仕方なく眼鏡を外したリューディアは、このご飯を食べるときだけは眼鏡を外してしまおうと思った。それに今、この場にはヘイデンの家族しかいない。リューディアをリューディアだと知っている者が他にはいない。テーブルの隅に眼鏡を置く。
 スプーンを手にし、どんぶりの中身をすくって、口の中に入れる。卵がふわふわと溶けていく感じがする。

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