婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
4.
 リューディアがモーゼフと婚約解消をしてからというもの、彼女はこの王城を訪れなくなっていた。それは当たり前のことではあるのだが、それでも寂しいとさえエメレンスは思っていた。
 リューディアがここを定期的に、といっても月に一回程度訪れていたのは、モーゼフが彼女の婚約者であり、少しでも彼との距離を縮めたいという思いがあったからだ。しかし、リューディアのその想いはモーゼフに届いていたのかいなかったのか、わからない。

 そのモーゼフはモーゼフなりに悩んでいた。というのも、リューディアに会えば心臓がバクバクと激しく鳴り始め、胸が締め付けられるように苦しくなってしまうのだ。だからこそ、彼女に会いたくないというのが彼の言い分であったのだが、彼女が婚約者である以上は会わなければならないという義務感があり、そのため無理矢理会うしかなかった。とモーゼフ自身はそう思っている。
 だが、そんな彼女はもうここに来ることは無い。代わりに、フリート・メイソンという女性が頻繁にやって来るようになっていた。彼女とは、モーゼフがいつも通っている図書館で出会ったそうだ。

 モーゼフは口にする。フリートという女性を一目見た時に、リューディアと共にいた時には感じることのなかった痺れが、脳髄から手足の先までを走り抜けた、と。さらに、彼女こそまさしく運命の女性だと騒ぎ立て、こうやって王城に呼び入れるようになった。
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