婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
 エメレンスの口から妹の名が出たところで、シオドリックは顔をしかめた。それに敏感に気付いたエメレンスも顔をしかめる。
「リューディアに何かあった?」

「いえ、あ、まあ。あったと言えばありましたが……」

「もしかして、その、兄上との婚約解消がショックで寝込んでいる、とか?」

「いえ。そのようなことはありません。元気に、やっていると聞いています」

「聞いてる? 聞いてるって、シオドリックはリューディアと一緒に暮らしているんだよね?」

「え、と。まあ、それが、実はですね……」
 けして口止めをされていたわけではない。だけどあのリューディアだ。あのリューディアが魔導士団採掘部隊としてシャルコで仕事をしている、と言って、誰が信じるだろうか。だからシオドリックは積極的にその件については口にしなかったし、彼の二つ上の兄のミシェルについても、その件については聞かれるまでは答えない、とも言っていた。

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