婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
 そう口にしたのは、父親がリューディアの家庭教師にと連れてきた元魔導士団の副団長を務めあげた男。言われた当の本人は、何のことやらという表情を浮かべていたが、父親だけは嬉々とした表情を浮かべていた。
 そもそも、男児しか生まれないという魔法公爵家に女児として生まれてきたことそのものが奇跡なのだ。

「ボワヴァン山脈の魔宝石採掘現場で、以前、崩落事故が起こったのはご存知ですよね」

「ああ、それは聞いている」

「まあ、それで、あれなんですよ。魔導士団の採掘部隊は完全に人手不足に陥りまして、ですね。兄が猫の手も借りたい勢いでリューディアを誘ったというわけです。まあ、勧誘ですよね」

「それで、リューディアが?」

「はい。そして()()リューディアが、それを引き受けたのですよ」
 報告をしているだけなのに、ついシオドリックも興奮してしまう。
「あのリューディアがですよ?」
 兄であるシオドリックでさえ、その話を聞いたときは信じられなかった。兄が魔法を使ってリューディアを洗脳したのではないか、と不謹慎ながらもそう思ったくらいだ。
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