婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
 激しい音を立てて、大き目の岩が落ちてきたのは彼らが坑道を歩き始めてすぐのこと。

「おい、お前たち」
 部下の様子を黙って伺っていたガイルもつい、声をあげてしまう。埃も舞い上がり、周囲は砂塵によって視界を奪われる。
「無事か、怪我はないか」
 ガイルの声しか聞こえない。だが、よくよく耳を澄ませば、ケホケホ、ゲホッと咽ているような声が聞こえてくる。

「師長、俺たちはなんとか」

「はい、特に怪我もありません」

 それが嘘ではないと確信できたのは、その砂埃が全て引いてから。

「また、崩落かよ」
 ガイルは忌々しく口にする。今回は規模が小さいが、数月(すうつき)前には大きな事故が起こった。幸いなことに採掘師たちは無事だったが、採鉱を担当している幾人かの魔導士たちがそれによって怪我をした。そして彼らは今、この仕事から離れている。

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