婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
 この地に赴任する際に、採掘部隊長という名を返上したいと団長に申し出たが、その肩書が何かと役に立つときがくるからという理由で、このシャルコに赴任しても採掘部隊長という肩書がついている。実際の部隊長としての仕事は、王都にいる副部隊長と幾人かの部下たちがこなしてくれているようだが、それでもヘイデンの意見が必要とされるとき、彼は王都にも出向いている。

 つまり、ヘイデンは多忙なのだ。多忙なうえにこの人手不足が重なり、採掘現場の安全管理が充分に行き届いていなかったことに気付いてはいたが、なかなか手が回らなかった。

 それが、リューディアが来てくれたことによって、ヘイデンが懸念していたことを次から次へと解決に導き、さらにあの偏屈の採掘師たちも虜にし。
 引きこもりの妹をわざわざこのシャルコの街にまで引っ張ってきた甲斐があったというもの。
 ヘイデンはこの日、にやにやと気味の悪い笑みを浮かべながら、酒を煽った。

< 84 / 228 >

この作品をシェア

pagetop