婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
 いつものリューディアならこんなことはしない。足場の悪いところを歩くことなど。だけど、クズ石のことだったり、今までの疲労の蓄積だったり。そういった積み重ねが彼女から正しい判断力を奪っていたのだ。
 グラリと身体が傾いたのがわかった。足元が崩れている。この下は地下水脈。だからこそここの坑道は危険と言われている。
 浮遊の魔法。衝撃を和らげる魔法。今、どの魔法を使うべきかということが、リューディアの頭を駆け巡るのだが、それの発動までには至らない。正しい判断ができなくなっている。
 ただ、これから襲い掛かってくる衝撃に恐れて、目をぎゅっと瞑ってしまった。
 それでも恐る恐ると目を開いたのは、くるべき衝撃がこなかったから。

「リューディア、大丈夫か?」
 彼女の両腕をがっしりと掴み、そして引き寄せた男がいる。

「レン、さま? どうしてここに?」
 地下水脈に落下しそうになっていたリューディアを助けてくれたのは、このリンゼイ王国第二王子であるエメレンス・ファン・リンゼイ、その人であった。
 リューディアは彼の胸元ですっぽりと抱き締められていた。
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