婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
「そうか。下まで落ちなくてよかったよ」

「それは、あの、レンさまが助けてくださったので」

「そうか。ありがとう、レン。だから君は途中から走り出したんだな」

「え、ええ、まあ。はい」

 エメレンスはこの坑道の奥から魔力がグラリと歪むのを感じた。だから、何かが彼女に起こっていると思い、自分がもてる力の全てを駆使して、ここに向かってきたのだ。

「だからって、空間転移とか、無駄に高度な魔法を使うことは褒められたものではない」
 というヘイデンの言葉で、エメレンスが空間転移を使ってまでリューディアを助けてくれたことに気付く。
「だが、それでディアが無事であったのも事実。ありがとう、レン。ということで、ディア。ここにいるのは俺の部下のレン・ホリノヴァだ。エメレンス殿下ではないから、気をつけろよ」

「はい。わかりました。レンさま。先ほども言いましたが、わたくしもリディア・オーストンと名乗っておりますので」

「ディア。そのレンさまというのもやめた方がいい。ここでは君とエメレンス殿下は対等だからな」

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