婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
「え、と。では、なんてお呼びすれば?」

「ディア。ボクのことは、レンと呼んで。ボクも君のことはディアと呼ぶし、ね。呼んでみて」

「え、と、あ、はい。レン……」
 さま、とつけたくなるところを、リューディアはぐっと堪えた。

「よし、君たちは同僚だし、俺の部下だ。何か問題があったら、すぐに俺に報告してくれ」
 新たな部下を得たヘイデンは、嬉々として微笑んでいる。

「はい。よろしくお願いします。ヘイデン部隊長」

「もしかして、わたくしも。お兄さまのことは部隊長とお呼びした方がよろしいのでしょうか?」

「いや、ディアはいいよ。ディアからそう言われても、なんか気持ち悪いし」

「お兄さま、気持ち悪いだなんて、酷いです……」
 兄妹のやり取りを、エメレンスもにこやかな笑みを浮かべながら聞いている。

「ディアが元気そうで安心したよ」
< 93 / 228 >

この作品をシェア

pagetop